24.11.07

毎日新聞: 社説:新しい入国審査 安心できる仕組みが欲しい

毎日新聞: 社説:新しい入国審査 安心できる仕組みが欲しい

全国の空港と港で、来日する外国人から指紋と顔写真の提供を義務付ける新しい入国審査が始まった。01年の同時多発テロを受け、米国が同様の対策を講じたことに呼応し、出入国管理・難民認定法を改正して来日外国人に手続きを義務づけたものだ。

 採録したデータを、国際刑事警察機構と日本の警察が指名手配した約1万8000人、過去に日本から強制退去させた約80万人のリストと照合し、該当者の入国を防ぐことを主な狙いとしている。法務省はテロ対策を強調しており、鳩山邦夫法相が不用意な「アルカイダ発言」で物議を醸した経緯もあるが、実効性には疑問もある。前科前歴がないテロリストを発見するのは難しく、港での船員らのチェックや密出入国の水際での警備も万全とは言えないためだ。

 しかし、偽変造パスポートを使う不法入国に、威力を発揮することは間違いない。昨年中に強制送還した約5万6000人のうち約7300人は以前にも送還され、本来は入国が認められない外国人だったとの事実もあり、出入国管理は尻抜けとの批判が絶えなかった。指名手配中の赤軍派メンバーが堂々と密出入国を繰り返していたことが判明して捜査当局をあわてさせたこともあったが、今後は偽名での入国を見逃さずに済む。犯行後、出国し、ほとぼりが冷めると再来日して犯行に及ぶ窃盗団などの対策としても効果的だ。

 四方を海に囲まれ、出入国管理の強化が急務とされながら、今回が初めての来日外国人の犯罪対策であることにも注意したい。指紋採取などへの抵抗感を和らげ、制度を定着させるには、達意の説明が必要であることはもちろん、手続きのスピードアップなどによって来日外国人の負担を軽減させるべきも言うまでもない。

 採録したデータの保存や取り扱い方法についての基準を示す必要もある。従来の説明に従えば、データは一義的には照合が終われば不要になるはずだ。滞日中のトラブル発生時の身元識別の必要を考慮しても、帰国から一定期間後には廃棄すべきであり、保存期間の設定は必要不可欠ではないか。米国でも登録されたリストの不備が指摘されていることに照らせば、本人の個人情報コントロール権に基づき、リストへの登載の有無の照会や誤登載の際の削除要請などに応じる手続きを定めておくべきでもある。情報が悪用された場合の罰則規定も欠かせない。

 来日外国人労働者の労働条件を改善し、単純労働者の受け入れ問題についても長期的な視野からビジョンを示す必要もある。研修生制度によって来日した外国人を低賃金で酷使して国内外から批判を浴びたり、不法滞在の外国人の労働を黙認して重宝がっているのが実情だ。入国審査を厳正にする以上、不当な就労差別などが生じないように、来日外国人労働者の権利の確立を目指さねばならない。

 来日外国人の立場や国際的な信用を重視することなく、犯罪者対策に偏重していたのでは、新制度は幅広い支持を得られない。

毎日新聞 2007年11月24日 0時14分

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